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SDGsとアニマル・リテラシー
2023年3月1日 掲載
目次:
SDGsにおける動物
SDGsとアニマル・リテラシーの関係とは?
人間と動物は連動する
絶滅危惧種の保全活動にみる、SDGsとアニマル・リテラシー
SDGsにおける動物
最近、SDGsという表現を目にするようになることが益々多くなったと感じている。SDGs と言えば環境を大切に、資源を大切に、持続可能な生活様式を目指そうなどという考えが基本であると思われがちであるが、実はメディアなどでしばしば取り上げられている取り組みなどが極めて表面的であることに私たちは気づいていないのではないだろうか。本記事では、より深い部分において、SDGsがどのようにしてアニマル・リテラシー、すなわち動物一般教養とつながっているのかという点について見ていきたい。
例えば、食を取り上げてみると、持続可能な食物生産とは一体どのようなものであるかについて考える必要があろう。肉や動物性の食品は非常に効率の悪い食料であることは一般的に知られている。家畜に食べさせる飼料や、その生産に活用されている農地をすべて人間の食料に回せば、より多くの人々に食料が提供できるという点はしばしば語られている。では、地球上の人間がすべて菜食主義に転じれば良いということなのだろうか?原始時代から人類は雑食動物であり、植物及び動物由来の食料をバランスよくとることで健康を維持してきた生き物である。動物を食べることは自然なことなのである。そして、その本質は今も決して変わってはいない。
しかし、人類は徐々に発展し、生活を向上させていく中で「効率の良い生産体制」を様々な分野で求めるようになっていった。畜産業界もその一つである。大量の動物を狭い敷地に閉じ込め、人工的に製造された飼料を与え、効率よく肥育していく… そのような生産体制が各地で見受けられるようになった。動物を放牧し、自然の中にある食料を利用するということよりも、たくさんの肉やその他の製品を生産していく道が選ばれたということである。このため、排泄物からくる環境汚染、過密状態下における家畜の成長・健康維持を目的とした抗生物質の乱用、飼料用の作物の作付面積の拡大等々、SDGsからは程遠い仕組みができてしまった。また、放牧であっても大規模な需要を賄うためには家畜の個体数をどんどん増やしていく必要があり、結果としては同じように環境汚染が起こったり、人間の食料を生産する土地との競合が生じたりするようになってしまったのである。
前述の抗生物質の使用などは、世界的に大きな問題と化している。人の食料となる動物に抗生物質が日常的に使用されていると考えると、背筋が寒くなる思いである。人間の健康には一体どのような影響があるのだろうか。また、抗生物質の大量使用は耐性のある病原体を生み出してしまい、感染症などの治療にも重篤な影響を及ぼすことになってしまう。
SDGsとアニマル・リテラシーの関係とは?
さて、これとアニマル・リテラシーとは一体どのような関係があるのだろうか?一つ目に、自分の食べている動物にまつわる事実関係を知ることも一般教養と位置付けることができる。それを知れば、自分の口に入るものに対する意識が芽生えることであろう。二つ目に、動物の飼育環境が根本にある問題であることに気づけば、安価な肉の大量消費を促すような「食べ放題」的ビジネスが果たして今の世の中に必要であるかを疑問視するようになるかもしれぬ。このような考えが発展していけば、動物由来食品を意識的に拒否するのではなく節度をもって消費したり、購入時に生産体制に目を向けて商品を選択したりする人々が増えるだろう。結果として、このような状況がどんどんと進展していけば、今まで肥大の一途をたどってきた畜産現場の動物の飼育体制に変革がもたらされ、
動物福祉
の方面でも発展があると考えられる。そして言うまでもなく、新たな生産体制と消費動向は地球環境、世界の食糧事情などに良い結果をもたらすことになろう。
動物一般教養を身につけることは、動物に対する慈しみの気持ち深めることと必ずしも同じことではない。自分たちとかかわりのある周囲の動物に目を向け、彼らの世界で何が起こっているかを知ることにより、人間が自らの行動を変えていく必要性を痛感する、これこそがアニマル・リテラシーの重要な役割なのである。「エコ」という言葉に導かれ環境にやさしいヤシ油(ココナッツオイル)を大量に使用することは、熱帯におけるヤシ農園を増やすきっかけを作ることになる。熱帯雨林を伐採してヤシ農園を増やしていけば、地球温暖化が促進されてしまうのである。それだけではなく、アジアの希少動物であるオランウータンの生息地を奪ってしまうことになる。そして、オランウータンこそ多種多様な植物を食しその糞によって植林活動をする、熱帯雨林の再生を助ける動物なのである。正に人間の消費活動と動物、そして環境が三つ巴になって悪循環が繰り返される構図ができあがってしまうのである。環境にやさしい油、でもそれにまつわる動物の実態やそこから発生するであろう環境問題を知れば、消費者として自分はどうしたら良いのであろうかと人間は悩むはずである。その悩みを抱えればこそ、SDGsという言葉の本当の意味を考えることができるようになるのであろう。アニマル・リテラシーとは、決して動物を守るための知識ではない。それは人間が自分の生活、自分の健康や幸せがいかに動物のそれと連動しているかを知るために必要な知識なのである。
人間と動物は連動する
動物介在介入(所謂アニマルセラピー)の基本としてしばしば語られる「
原始の血の説
」というものがある。これは、動物が原始時代から人間にとって環境のバロメーターとしての役割を果たしていたために、その感性が現代人の中にも脈々と受け継がれているという説である。つまり、動物が安泰であればその環境には自分に対する脅威もないであろうと人間は思うことができ、故にそのような動物の姿を見るだけで人間は落ち着くこと、安心することができるということなのである。逆に動物が不快な思い、恐怖や怒りなどをあらわにすれば、人間はその環境には自分にとってもマイナス要素があるに違いないと考えてしまうのである。単純な言い方をすれば、我らの幸せと彼らの幸せは連動しているということであろう。これがしばしば語られる「動物による癒し」の正体なのである。
動物園のクマが囲いの中で行ったり来たりという行動を繰り返す姿を、多くの人々は目にしたことがあるのではないだろうか。これは常同行動という一種の異常行動である。本来広い範囲で行動を展開させる動物が狭い場所に閉じ込められたことから、このような行動が展開されるようになってしまうのである。原始の血の説に沿って考えれば、このクマの行動はそれを見物している人々の深層心理に良い影響を与えるはずもない。しかし、その意味を知らない者たちは、それを見ることで表面的な楽しさを感じることにとどまり、より深い影響を意識的に感知することはないであろう。このようなところにも、動物一般教養の欠如がもたらす負の効果が見受けられるのである。
絶滅危惧種の保全活動にみる、SDGsとアニマル・リテラシー
地球環境を救おうという試みの中には、絶滅危惧種の保全活動がある。しかし、人工飼育下における動物種の繁殖は、やがて人工飼育下でのサバイバルに適した個体を作り上げてしまい、それが必ずしも自然の中でのサバイバル機能とイコールでは結ばれない場合もあるようである。M.R. O’Connorは、彼女の著書である「Resurrection Science」
1)
の中である調査の内容を紹介している。そこでは人工飼育下で繁殖された58種の動物たちのうち、自然環境に戻された際に成功裏に繁殖を行えたのは18種のみであったと記されている。さらには、自然界での継続的繁殖が確認されたのはわずか13種であった。また、現在実施されている110種の人工繁殖プログラムのうちの52種は自然復帰計画を立てていないということである。言い換えれば、動物を救ってもそれらを戻す環境が整っていない、または既に破壊されてしまっているということなのであろう。これでは真の意味の自然保護と言えぬ状況ではなかろうか。
北米大陸に生息する渡り蝶のオオカバマダラは米国北部で夏場に繁殖し、越冬するためにメキシコに長距離移動をする。しかし、幼虫に必要であるトウワタという植物が群生する空き地などが激減し、繁殖も難しくなっている。さらには、蝶が冬を過ごすメキシコの森林地帯では、開発などで伐採が進んでいるのである。こうしてこの渡り蝶たちが生き延びるのが難しくなると、彼らが受粉する作物にも影響が出る。そして、それは人間用の食料生産にも影響を及ぼすのである。このようなことが起こっている中、表面的にはSDGsという言葉は益々の広がりを見せ、多くの企業などが様々な分野に多額の寄付を行っている。地球環境を支えてきた動物たちが置かれている現状を多くの人々が知らぬまま、「環境にやさしい行動を」と教えられているのである。リサイクルをしよう、フードロスの減少を目指そう、エコな生活習慣を身に付けよう、再生可能エネルギーの拡大を応援しよう… そこに人間以外の生き物たちの姿は見えない。このような中、真のアニマル・リテラシーを皆が身に付けることこそが最も根本的な問題解決につながることになるのではないだろうか。
1)
O’Connor, M.R. (2015). Resurrection Science. New York: St. Martin’s Press.
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