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特別無料記事2
動物福祉に配慮した動物園(後編)
2020年06月23日 掲載
特別無料記事2 − 動物福祉に配慮した動物園(後編)
2019年8月24日に、
アニマルリレーションシップ deux
様主催で、動物園のあり方を考える講演会「
〜動物の幸福と、私たちはどう向き合うか 〜
」が開催されました。演者は福岡県の
大牟田市動物園
の椎原園長と当法人代表理事の山崎恵子でした。大牟田市動物園は、最近動物福祉を主たる理念として掲げていることで注目を浴びている施設です。椎原園長は今どのようなことが動物の飼育・展示に際して重要視されるべきか、大牟田では何を大切にしているかなどを熱心に語られました。
今回は、このコラボ企画に関する記事の後編をお届けいたします。
前編
では、椎原園長が説明をされたモルモット・ロードやハズバンダリ―・トレーニングの話をまとめましたが、その話にさらに園長の言葉をつなげると、人にとっても動物にとっても「逃げられないことは苦痛」であるということなのです。椎原園長は、上記のような動物のための工夫の原点にある考えた方はこれであると語っています。嫌なことから逃げられることは重要であると同時に、嫌なことから逃げた際に別な嫌なことが起こらないようにしなければならないのであると強調されています。
例えば、私たちがしばしば目にする犬の訓練にはこのようなことが起こりかねない状況が存在します。犬に何かを強要した際に、それに従わなければ「罰」が与えられるというのはまさにこのことでしょう。嫌なことから逃げたらもっと嫌なことが起こるから仕方がなく最初の嫌なことを我慢するようになる… このように考えるようになってしまった犬はたくさんいるのではないでしょうか。
大牟田市動物園では、動物のケアは動物に協力してもらって行うものであると園長は語ります。動物が協力してくれる方法とは、飼育員にもやさしい方法なのです。ハズバンダリ―・トレーニングの目標とするところは、実質的な健康管理や治療などを容易にできるようにすることなのですが、それだけではなく、トレーニングの過程で実践者たちが個々の動物に対してどのような扱いがベストであるか、どのような環境をその個体が必要としているか等々を知ることができることも大切であると椎原園長は指摘しています。つまり、トレーニングとは成し遂げるべき目標だけのためにあるものではないということなのです。これもまた多くのペットの飼い主たちが見習うべき事柄でしょう。前述したように、たとえ必要なトレーニングであっても、大切なのは嫌なことから逃げられる状況を作っておくこと、また各個体が将来その生活上加齢と共にどのようなことが必要になってくるかを見据えてトレーニングを計画することも枢要だということです。
動物の飼養管理をするにあたっては、良い情報を得ることも重要ですが、それに加えて実践者の技量も重要であると椎原園長は語っています。どのような良い手段があっても、それを実施することが人間側にとってできないこともあると自覚することが大切なのです。大牟田市動物園は、以前は現在よりも多くの動物を飼っていたそうです。その現場を見て現園長は様々な動物の姿に対し「この動物を飼う必要があるのか?」と考えたそうです。引き継いだ際には、「何故?」と思うことがたくさんあったようです。今、大牟田市動物園は動物の繁殖を行っていないので、個体の数や動物種の数も以前より減っています。また、今いる動物たちの高齢化も進んでいます。しかし、動物福祉を主軸に置いた動物園を目指している今、拡大につながる取り組みはしていません。大牟田市動物園のエントランスには、「ゾウはいません!」という看板が堂々と掲げられています。群れで暮らす動物であるゾウ、その自然な姿を見せるためには膨大な敷地が必要になるでしょう。大牟田市動物園にはそのような場所がないため、もう飼わないと宣言したのです。椎原園長が口にされた「身の丈に合った…」という言葉には、聴衆も思わずうなずいていました。
大牟田市動物園での動物たちの飼養管理は、「複数の目」を用いるという形で行われています。一人の目よりも多くの視点を取り入れることの大切さを園長は述べています。今後のことなどを決めるにも皆で話し合う、力がある者が自分の考えを押し付けることは良くない、人間も互いの違いを認め合うことが重要だということです。様々な人間がいる中で、飼育員が人それぞれの違いを学んでいくことの積み重ねも、良い方向性を見つけるためには必要なことであるということなのでしょう。飼育員にはそれぞれの意見ややり方の違いがあっても、動物の生活を守ろうという点では一致しているということも、忘れてはならないことです。
大牟田市動物園の広報に関する話の中で、椎原園長は何事も隠さず伝えることの大切さを語ります。「ここまでできた、でもここでは失敗をした」という情報を全部出す、そしてそれに加え「だから次はこのようなことができる」と続けるのです。さらには、動物がたくさんいなくても発信はできる動物園でありたいという話の中で、「コラボレーション」という言葉を用いて、動物にとっても人間にとってもやさしい、楽しい、役立つイベントを考えると園長は語っています。例えば、地元の農園を借りて、子どもたちも交えて畑作りを実施することで、子どもたちが野菜などがどのような形で作られるのかを目の当たりにすることができるのです。さらには、この畑を野生のイノシシが荒らすという体験をすると身をもって様々な学びをすることができるのです。
また、動物の気持ちを子どもたちに考えさせるためのイベントの一つが、「動物の気持ちを詩にする」というものです。動物の数は少なくとも、地域社会と一体化することができる動物園がこのようにして成り立っていくのでしょう。人間が今まで追求してきた生活のあり方そのものを考える、そしてそれを変えていく必要性が痛切に感じられる今日この頃、動物園は、その原動力の一つになれるのではないかという思いが園長の言葉の中に感じられるのです。
最後に、椎原園長は2019年8月にスイスで開催されたワシントン条約の国際会議に触れ、そのような場での話し合いや決め事に対する知識を日本の一般の方々がもっと知る必要があるのでは、という自身の考え方が示唆されるようなコメントをし、今後の動物との共生の方向性を考える際、中心的な役割を担うのが動物園なのかもしれないと語られました。
なお、昨年全国公開された映画「いのちスケッチ」は、大牟田市動物園のストーリーであることが講演会で公表されました。
多くの消費者が、動物園はそこに展示されている野生動物を見学する施設と思っていることでしょう。しかし、動物福祉を追求する動物園の動物の扱いの根底にある理念の一部は、私たちが一緒に暮らすペットなど、動物全般に当てはめることができるものであり、また、これからの動物園は、そこにいる動物だけではなく、私たち人間が様々な動物とどのように袖すり合っていくべきかを再考察するきっかけを与えてくれる場所となりうるのです。動物園こそ、一般社会がアニマル・リテラシーを身に付ける上で、今後活躍が期待される施設なのではないでしょうか。
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